職場でのストレスから近年うつ病や自殺、過労死にいたるケースが増え、労働者、その家族、事業者および社会に与える影響が大きくなっています。このような状況をうけて国は「メンタルヘルス対策」を重要な課題として捉えています。事業者は国の施策や法律に基づいたメンタルヘルスケアを推進していくことが必須の課題となっています。
経済や産業構造が変化する中で、職場における労働者の受けるストレスは年々拡大傾向にあります。仕事や職場生活で強い不安、悩み、ストレスなどを感じている割合は1997年には約63%に達しており、近年では約7割近くになっています。
働く人の中で心の不調に悩む人は年々増加の一途をたどり、特に男性の場合には、働き盛りの30代と40代に不調を訴える人が多くなっています。また近年では20代の新卒採用者である若者の不調者も多くなっています。正規雇用者が減り、正社員として早期から即戦力を求められる状況の下、常に厳しい労働環境の下で働くこととなります。一人当たりの仕事量・質共にこの問題は、企業での休職者の増加のみならず、企業全体の生産性の低下を示唆するものとして、深刻な社会問題と考えられるようになってきました。
そのような勤労者のストレスの背景には、仕事量の増加、質の急激な変化に加え、IT進化に伴うひとり職場の拡大などのコミュニケーション問題が指摘されています。また不安定な雇用形態、家族形態の多様化、地域社会脆弱化に伴い労働者が一人で担う役割は増えており、公私共にストレス要因は多くなっています。
個人の弱さと捉えられていた心の病気は、いまや「置かれた環境次第で誰にでも生じるものであり、生涯を通じれば、5人に1人が精神疾患と診断され得る」(厚生労働白書平成16年度)と考えられるようになりました。このような状況を鑑み、平成22年5月には、厚生労働省から「誰もが安心して生きられる温かい社会づくりを目指して~厚生労働省における自殺・うつ病等への 対策~」が発表され、対策の5つの柱のうちのひとつとして、「職場におけるメンタルヘルス対策・職場復帰支援の充実」を掲げられています。
我が国の自殺者は1998年に3万人を超え、2006年6月には「自殺対策基本法」が制定され、自殺を個人的問題としてのみならず、社会的取り組みとして防止すべきこととして打ち出されました。その背景には、大手広告代理店でうつ病による自殺が起きた事件(電通事件)に対して2000年の最高裁で「安全配慮義務違反」として企業責任が問われたことをきっかけに加速しています。また少子高齢化社会において労働人口の減少する中で、近年の自殺者の若年化傾向も社会問題となっています。一人の自殺者の方の背景に存在する家族、友人、同僚を含めるとその経済的、心理的影響は測り知れないものがあります。
事業者側の不安要素の一つに精神疾患の病名の多様性が上げられます。診断書に記載された精神疾患にどのように対応したらよいかと困惑するケースが増えてきました。管理監督者や職場全体が具体的な関わり方が分からないために戸惑うケースが増えています。どのような病気もそうですが、周りの理解、家族の協力、職場や健康管理スタッフ等の連携が密であるほど順調な回復と職場復帰に繋がります。
精神疾患、心の病気は眼に見えない漠然としてものであるがゆえに、家族も職場も戸惑い、当事者が孤立して深刻化するケースも増えています。
働き方の多様化が進む中、長時間労働、IT・グロバリゼーションにより情報の高速化、不況による経費と人員の削減など、さまざまなストレスが引き金 となって、心の病に至る働く方が増えています。こうした労働者の心の問題に対して、社会の関心も徐々に高まってきており、企業や組織はメンタルヘルス対策 に積極的に取り組み始めました。
2000年(平成12年)旧労働省による「事業場における労働者の心の健康づくりのための指針」が出てからは、企業に対してメンタルヘルス対策が求められるようになってきました。
電通事件の最高裁判決以来、職場ストレスは個人の問題から職場環境の問題と考えられるようになりました。企業にとっては、安全配慮義務の観点から、 従前の身体の健康の加えて、心の健康(メンタルヘルス)管理が重要なテーマとなっています。また労働者の精神疾患・自殺に対しての労災認定・損害賠償事件 の増加に伴い、リストクネジメントの観点からも、企業はメンタルヘルスへの取組みを求められています。
職場のメンタルヘルス対策については、厚生労働省の指針(平成12年)における具体的な施策として、事業場外資源(外部専門機関)の有効活用が掲げ られ、企業内部での取り組みと外部専門機関の取り組みの連携が求められるようになりました。また平成22年5月には、厚生労働省から「誰もが安心して生きられる暖かい社会づくりを目指して~厚生労働省における自殺・うつ病等への対策~」が発表され、対策の5つの柱のうち、「職場におけるメンタルヘルス対 策・職場復帰支援の充実」がひとつとして挙げられています。
このような動向に伴い、第11次労働災害防止計画(平成20年~24年)では、「メンタルヘルスケアに取り組んでいる事業所の割合を50%以上とす ること」が盛り込まれ、さらに新成長政策(平成22年6月 閣議決定)においては、「2020年までの目標として、メンタルヘルスに関する措置を受けられる職場の割合100%」が掲げられています。一方、メンタルヘルスに取り組んでいる事業場の割合はまだ低く(平成19年労働者健康状況調査では 33.6%)、メンタルヘルスに取り組んでいない事業場は「専門スタッフがいない」及び「取り組み方が分からない」を理由として挙げています。
職場のメンタルヘルス対策は「0次予防から3次予防」を「事業所における4つのケア」において計画的かつ継続的に行うことが重要ですが、メンタルヘルス、キャリア、コミュニケーション、心理学をベースに「予防やリスクマネジメント対策」の上を目指す「働く人と組織の生産性向上=働く意欲と成長と繁栄を目指す対策」を目標とします。
0次予防 | お互いに尊重し合う人間関係の中で、一人ひとりが自分の価値と働きがいを見いだし、いきいきとした職場、組織風土を創る。個人と組織の成長と活性化に向かう好循環を生み出す。 |
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一次予防 | 健康増進と疾病予防。教育啓蒙活動。メンタルヘルスの正しい知識を知り予防できる。 |
二次予防 | 早期発見・早期対応。メンタル不調に早めに気づき対応し重症化させない。 |
三次予防 | 職場復帰支援・再発防止。メンタル不調による休職と職場復帰過程での適切な治療と順調な回復を支援する。不調者の家族の支援も含む。 |